おわりの雪

2005年12月2日 読書
ISBN:4560047987 単行本 ユベール・マンガレリ 白水社 2004/12/10 ¥1,680

トビを飼いたいと強く願う少年と、死の床に伏せっている父親。少年はトビを獲る男の物語を父親に語って聞かせる。「『男の影はひとつの黒い夜でした』ふと口をついて出たことばで、大した意味はない。というより、ほとんどまったくない。でも、そのフレーズが出たときには、自分でも素敵だと思った」

トビを飼いたい。あのトビのために、少年が犠牲にしなくてはならない犬や猫たち。お湯を張った桶のなか、麻袋の中で動かなくなった子猫。老犬を捨てに行く長い道程。帰り道で犬に遭うのが恐ろしく、走って走って、途中で見つけた犬の足跡。自分を追うのを諦めて、森の方へ歩いていった犬の足跡。「あっちにはなにがあったんだろう?」
死んでゆく者たちの静けさと、生きてそこにあるものの輝かしさ。雪がたくさんふった年、少年はその狭間を行き来しながら喪われるものを感じ続けている。こんなにも――的確に描けるものだろうか?彼の一冬を。犬を捨てにゆく彼の道程が、ぎゅっと握られた固い雪のように、いつまでも胸の中に残っている。

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