ISBN:402257822X 単行本 夏石 鈴子 朝日新聞社 2003/04 ¥1,365

なぜあの人やあの人が落ちて自分が受かったのか、いくら考えてみても選考基準や決め手はさっぱり分からぬまま就職試験をパスしていたみのり。短大卒。20才。出版社に入社。配属先は「受付」。
自分の覚束なさとヘンテコな社会。なんだかさっぱり理解できない人や、まったくわけの分からない仕組み。今まで自分が培ってきた常識と、外の世界の、なんと大きく噛み合わないことか。そこに生じる違和感に戸惑いながらも、どうにか折り合いをつけてゆこうとするみのり。その姿は頼りないが、清々しく健気である。

私は夏石鈴子の言葉使いが凄く好きだ。言ってることがすっと入ってきてストンと腑に落ちる感じ。「そーそー!そーなの!!」みたいな大袈裟な共感では決してない。「あ、そうか。そうだ。そんな風に思ってた」そういう静かで確かな納得。それがあんまり自然に語られるので、知らないうちに心を揺さぶられていて、気がつくと「あれ、なんでこんなに切ない気持ちになってるんだろう」と驚いてしまうくらい。
ヘンテコ社会に翻弄されつつも、その中で自分の正義を実行できるみのり(電話線を抜いて絶対電話を受けようとしない人がいるので、電話線が絶対抜けないようにセメダインで固める・笑)。「みのり、頭いいね」と感心されて、「え、自分では意地悪だと思ってた」。こんな噛み合わなさも良いなと思う。これから先はまったく何があるか見えないが、最後は不思議と晴れ晴れした気持ちになります。

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