ISBN:4931284086 単行本 Rosamunde Pilcher 朔北社 1995/10 ¥2,520

「私の人生って無駄だったんじゃないかしら」輝きに満ちた素晴らしい少女時代を送り、貧しい戦時下も懸命に生きぬき、恋をして、結婚をして、子供たちを育て、今では孫もいる主人公の老女ペネラピ。彼女が人生の終わりにさしかかり、ふと虚しさにとらわれる。その瞬間が本当にやりきれなくて悔しい。ペネラピほど素晴らしく魅力的な人が、こんな思いにとらわれなきゃいけないなんて。

「シェルシーカーズ」はロザムンド・ピルチャー作品の中でも1、2を争う傑作です。押し付けがましいハートウォーミングな物語なんかではないし、お婆さんの退屈な思い出長話なんかでも決してない。いや読んでからそう思うのならしょうがないけど、読む前にそう思われてしまうと本当に悔しいのだ。いかにも女の一大年代記という出で立ちに「受けつけないかも…」と思ってしまうのはすごく勿体無い。時代がどんなに動いていこうと、ペネラピの持つ自然な魅力にむしろ驚かされてしまうはず。あれだけ俗物に囲まれながら、どうしてこんなに素敵な人でいられるのだと。

ペネラピが姑と初めて出会うシーンで、姑はしきりと、ペネラピがストッキングを履いてないことばかり気にしている。ここ読んでるだけで姑に対して「わあ、なんて詰まらない人(笑)」と思っちゃうけど、こんなのは序の口で。姑の性質はペネラピが生む長女のナンシーにも遺伝し、ナンシーはまた面白いくらいの俗物さを遺憾なく発揮。彼女は見栄とプライドの塊で、見映えの良いものばかり好み、「欲しい」ではなく「要る」と言う。住所に「旧牧師館」と書きたいがばっかりに無理して高い家を買い、子供たちの教育費と自分の肥満と、夫からの無関心、母親(ペネラピ)の「世渡り下手」っぷりを嘆いている。なんか、こういうのって貧しくて居た堪れない。この人、例えお金持ちになれても絶対幸せになれない気がする。
ペネラピを取り巻く人たちってこんなのばっかりで、ホントどうやったらこんな中で窒息せずに生きられるんだ?と疑問に感じるけど、それは読み進むにつれてだんだん分かってくる。画家の父と、フランス人の若く美しい母親から受け継いだペネラピの素晴らしい資質。彼女を愛した一人の男性(子供たちは彼を知らない)。そんな彼女の過去の物語に、きっと魅了されること請け合い。人生ってこんなにも美しかったのか、と、驚きながらも感動してしまいます。そして一瞬とはいえ、「無駄だったのかも」などとペネラピに嘆かせてしまった側面に、どこまでも胸が痛むのである。

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