永遠の仔〈上〉

2006年5月15日 読書
ISBN:4877282858 単行本 天童 荒太 幻冬舎 1999/02 ¥1,890

子供の虐待を描いた本なんて絶対読めないだろうとずっと思っていました。そして何が描かれているか分からないせいで、ずっとこの物語が怖かった。でもすべて読み終えてから誤解を恐れずに言うと

この物語はとても面白かった。

多分途中で投げ出すだろうと思って上巻しか借りていなかったのに、我慢できずにすぐ下巻を借りに行きました。まず小説として面白いんです。ミステリー仕掛けの構成とか、その展開などが。とても分かりやすく、確実に読者を引っ張って行ってくれます。
そしてテーマとして描かれている虐待の方も、読む前はあんなに恐かったのに、実際に何が行われたのかを読むと明らかに恐ろしさが軽減しました。「知らない方が痛い」ってこういう事なんでしょうか。しっかり向き合ってしまえば、恐がることなどほとんどありませんでした。「虐待される子供の側ばかりが描かれて」などといった評価はかなり的外れだと思います。少なくとも私は、なぜ親が子供を虐待してしまうのか、この本で初めてヒントを貰えたように感じました。
「いいからとにかく家族なんだよ、家族さえ上手くやってればその延長で学校も社会も何でもすべて上手く行くんだよ」そんな風に社会の責任をすべて家族に押しつけてしまって、結果的にいちばん弱い人が苦しまなくてはならない。こういったやりきれなさに対する天童さんの怒りが、ところどころストレートに出てきて胸を打ちます。
子育てで手が放せない、親の介護もある、なのに夫が浮気する、いつもいっぱいいっぱい、でも子供達は「すぐ怒ってイライラするお母さんより、(気の向いたときだけ)優しく遊んでくれるお父さんの方が好き」。こんな風になってしまうのは、すべての責任を母親一人に押しつけてしまってるからではないか。「なんでも一人だけで頑張ろう、自分だけで何とかしようとしないでください」これから親の介護をすることになる人物に、施設の人はそうアドバイスする。自分一人で頑張ろうとすると、耐えきれずに心が壊れてしまう。そして周りの人の心も壊してしまう。頑張ったがためにこんなことになってしまうなんて、余りにも悲しい。
テーマの重さにしり込みして手が出せないでいる方、大丈夫です。「面白いので」読んでみてください。自分の家族や周りの人間関係、社会福祉について「なるほど」と気付かされる記述がたくさんあるし、今後それらのことを考える際の、良いヒントを与えてくれる本だと思います。

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