黒いカーニバル

2006年6月6日 読書
ISBN:4150401209 文庫 レイ・ブラッドベリ 早川書房 1976/07 ¥903

ちょっと微妙な作品も多かったんですが、なんと言ってもこの短篇集の強みは「みずうみ」(The Lake)が収録されてることですね。

波がわたしを世界から切り離した―空を飛ぶ鳥と、渚の子供たちと、浜辺にいる母から。ひとときの緑の静けさ。そしてふたたび、波はわたしに空と砂と騒ぐ子供たちを返してくれた。湖からあがると、出かけたときとほとんど変わらない姿で、世界がわたしを待っていた。

これも萩尾望都がマンガ化してるので知ってる人多いと思うんだけど、この話最初から妙な緊張感が漂っていて、実は好きです。宮澤賢治の「グスコーブドリの伝記」読んだときとちょっと似てる。なんだか分からないけど妙に(結末へ向けて)急いでいて、ざわざわと不吉なんですよ。

救命員が灰色の袋を持ってあがってくるとこから、主人公が「あけてください!」「さあ、早く、あけてください!」と叫ぶとこで緊張感ピークに達して、湖へ向かう小さな足跡に気付いたところで恐怖がじんわり辺りを満たしていく。でもいちばん恐ろしいのは最後の一文。マンガで読んだときもそうだったけど、あれは凍りつきそうになりますよ。

もうひとつ、話としてはそうでもないんだけど、描写がめちゃめちゃ好きな「青い壜」(Death Wish)。

「おーい!」
水晶の塔のひとつが、粉のような柔らかい雨となって倒れた。
火星の都市はすべてこんなふうなのだ。ときには、シンフォニーのように美しい調和を見せて立ちならぶ塔が、一声で倒れてしまう。それはまるで、バッハのカンカータが崩壊してゆくのを見ているようだった。


廃墟となった火星で、掛け声ひとつで崩れて行く古代の塔。それも「バッハのカンカータが崩壊してゆくのを見ているよう」ですよ!こんなの書かれたらイメージ溢れて止まらないですよね。ブラッドベリはこういうとこホント凄いなと思います。彼の文章に慣れてないと、何が起こってるのか、どういう描写なのか分からないという人も多いと思います。でもその代わり、一度彼の文が読めるようになると、物凄い光景がいくつもいくつも見れるようになってきっと驚くはず。

最初に読むならこの短篇集じゃない方がいいと思うけど、ファンの人にとってはブラッドベリ初期の意欲的な創造力を感じさせて、楽しめる作品集だと思いますよ。

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