初めて読んだブラッドベリ作品は、「火星年代記」ではなく「ウは宇宙船のウ」でもなく、「たんぽぽのお酒」や「ハロウィーンがやってきた」でもなく、「華氏451度」でした。

冒頭にちょっとだけ出てくる「ガソリンの匂い」という記述だけで、なんかもう既に怖かった。ただの静かな夜の描写なのに、何故か物凄く不穏で。まるで人でも焼いてきたかのような恐ろしさに満ちていて不気味。
「華氏451度」は、人間が深く考えることをやめてしまった、やめるよう仕向けられた社会を描く近未来SF。主人公の仕事は書物を焼くこと。華氏451度は、紙に火が付き、燃え上がる温度。

書物をもたない人々の娯楽は、次々と降ってくる絢爛な、でも一瞬で終わる刺激の連続。ここの描写だけでもかなり狂ってて禍々しい感じを受けるんですが、主人公が妻の友人夫婦に「どこかで起こっているらしい」戦争の話をふったときの反応が更に狂ってて凄まじい。「ええ。戦争。そうね、そんなことも確かにあるわね。でも、聞いたんですけど、戦争なんて、あっという間に終わってしまうんですってよ。兵士はみんなすぐに、帰ってくるんですって」そんな戦争あるわけないだろう。ということが、何故か誰にもわからない。「どこかで起こっているらしい」戦争が、まさに今頭上で起こっていることも分からない。

主人公が詩を朗読すると、涙を流して「だから嫌なのよ。悲しみばかり。だから詩って嫌なのよ」と叫ぶ人々。

考える力を奪われていることの不自由。自分が不幸だと気づかない不幸。恐ろしい物語でした。
ブラッドベリにしては「ストレートに不幸な未来」を描いてる感じで、実はちょっと珍しいなという印象(私見ですが)。でも最初に読むなら「火星年代記」とかより、むしろこっちの方が読みやすいのかなあ、と思います。

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