ISBN:4167662019 文庫 川端 裕人 文藝春秋 2002/05 ¥670

大分前に読んだので内容ウロ覚えなんですが…。

これ、何より衝撃だったのが「ロケットって自分たちで勝手に作って勝手に乗って勝手に打ち上げて良いんだ!!」ってことです。

勿論、技術的な面で火薬取り扱いなどといった専門的な免許とか、そういうのは要ると思いますけど。でも、個人で勝手に宇宙へ行くのを規制するような法律は一切ないんだそうです。驚き。確かに個人で宇宙へ行こうとする人ってあんまりいないのかもしれませんが。

いやー、だって、宇宙に行くのって、国とか軍とか企業とか、そういうのに頼らなきゃダメなんじゃないかって、勝手に思ってるでしょう?私は思ってましたよ。宇宙飛行士でもない、お金持ちでもない、なら宇宙に行ける機会なんてまずないだろうと。コーラのキャンペーンなんかで宇宙旅行当てるくらいしかチャンスないだろうと(古い)。
でも自作のロケットで行けるんですよ。作れればだけど。凄いよなー。まず作れないだろうが、思わず勝手に夢広げてしまう。「Fly me to the moon」とか歌ってしまう。本当はせめて火星までは行きたいところだけど、ちょっと控えめに月止まりにしてみました。

で、この宇宙に行ける!!というインパクトに押されて、他の内容あんまり覚えてないんですよ(すいません)。「人を乗せて飛ばせばロケット、核を載せて飛ばせばミサイル」みたいな、きな臭い内容も含んでたと思うんですけどね。ブラッドベリの「火星年代記」の引用もあったと思うんですけどね。登場人物たちの、夢と現実との狭間の葛藤もあったと思うんですけどね。でも、でも思いきって言ってしまうと

そんなのは二の次!!

「誰でも宇宙に行ける!!」これに尽きますよこの小説は。この事実がどれだけ私に勇気と希望を与えてくれかは、本当に計り知れないのであります(よっぽど行きたかったんだな、宇宙)。
ISBN:4778010019 コミック 水城 せとな 小学館クリエイティブ 2006/01/26 ¥530

「見た目が綺麗で人間ができてて自分にいい思いをさせてくれるような、そんな完璧な人をみんな探してると思ってるんですか!?貴方はそういう相手しか好きになれないんですか!?」

いいぞ今ヶ瀬、もっと言ってやれ。来る者拒まず去る者追わず、強く言い寄られたら断れない。「迫られて、流されて、捨てられる」のエキスパート大伴君。最低だなあ、そんな男、と思っても惚れちゃったらどうしようもないんだよ。見た目だって中身だって、もっとイイ男がいっぱいいることくらいわかってるんだ。でもそういう最低な男を好きになっちゃったんだからしょうがないでしょー!!あなたがいいって思っちゃったんだからしょうがないでしょー!!みんながみんな、最高の男を好きだと思ったら大間違いだぞコンチクショー!!

うっかり私怨入っててすいません。ダメな男に惚れやすいロクハナです、こんにちは。
なんか知らんうちにすっかり売れっ子になってるような(?)感じが致します、水城せとなさん。上手いですよね。嫌味じゃなくて。読んでて本当に切なくなったり嗜虐的な気分になったりできて面白い。優柔不断なダメ男に惚れちゃってる今ヶ瀬君のセリフが、相手を責めてるようで実は自分を傷つけてるのが傍目にも痛々しいぞ。こんなことまで言わせるなよな。でもこんなことまで言わせる男だから好きなのか?ああまったく。恋愛って厄介だ。厄介な男に嵌まってしまう自分も厄介だ。まったくもって困ったもんだ。
別雑誌で連載の「放課後保健室」もちらっと読んだけど、私は「窮鼠は〜」の方が好きですね。タイトルも素晴らしいと思います。黙ってそのままパクりたいくらいです。

あ、これボーイズラブですから、苦手な人は注意してください。遅いか。言うのが。
ISBN:4652077602 単行本 アン・ブラッシェアーズ 理論社 2005/05 ¥1,449

うちの図書館でわりとよく出ていたので、ふうーん、そんなに面白いんかい?となめた態度で読み始めたら見事にやられてしまいました。うーん、確かにこれは、魔法のかかった本だ。

このシリーズ、なんたって出てくる4人の女の子たちが4人ともすっごく可愛い。私は甘ったれのカルメンがいちばん好きですが(何気にこの子がいちばんモテモテだと思う・笑)、社交下手で自意識過剰なレーナも、エキセントリックで危なっかしいブリジットも、繊細で不器用なティビーもみんな大好きです。
この仲の良い4人の女の子たちがそれぞれ、自分が乗り越えなくちゃいけない問題に立ち向かうんだけど、その際のお互いを思いやって元気付けてあげたり慰めてあげたりする様子にぐっときてしまう。友達の痛みや喜びを分かってあげられる、自分もその気持ちに寄りそうことができるって、すごくいいなあと思うのだ。

この「ラストサマー」は「トラベリング・パンツ」シリーズの完結編。「トラベリング・パンツ」「セカンドサマー」と読みつづけてきた読者には「蛇足なのでは…」と懸念する人も少なくないと思いますが(訳者も最初そう思ったらしい)、大丈夫!とっても素晴らしい完結編でした。1作目から読んでると「ああ、みんなこんなに大人になって…」とじんときます。そして「あー、でもやっぱりまた同じような間違いを…」と、そんなとこでもじんときます(笑)。分かってるんだけどね。

3つも読むのはちょっと…と思ってる人、1作目だけでいいので試しに読んでみてください。しっかり完結していて「2作目に続く」というような終わり方ではないので、1作目だけ読んで満足しても十分だと思います。それも面倒な人は映画版をどうぞ。私はまだ見てませんが、どうやら概ね好評のようです。原作ファンとしては嬉しい限り。今から見るのが楽しみです。
ISBN:4043640013 文庫 吉野 朔実 角川書店 2002/02 ¥520

「本の雑誌」で連載している、吉野朔実の読書マンガ。吉野さんのお友達が、吉野さんに薦めるラインナップがなかなか面白い。オリバー・サックスの「妻を帽子と間違えた男」、アゴタ・クリストフの「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」、宮部みゆきの「火車」

他、「町でいちばんの美女」「ヨーロッパぶらりぶらり」「リジーが斧をふりおろす」「蹄鉄ころんだ」「ゼウスガーデン衰亡史」「ムツゴロウの青春記」「『事件』を見にゆく」「閉鎖病棟」「安全ネットを突き抜けて」「ドクター・ディマー」「感応の精神病理」「地下鉄に乗って」「ロウフィールド館の惨劇」「催眠術師」「香水」「青い眼がほしい」「牛への道」「シンプル・プラン」「彼岸からの言葉」「ふくろうの叫び」「リプレイ」「雷電本記」などなど……。

く…いいなあ。こんなに薦めてもらえるなんてホントにいいよな。友達から薦められた本て、詰まらなくてもそれはそれで面白かったりしますね。「薦めてくれた人本人を読むことになるから、ハズレ本でも時間の無駄じゃない」と素直にいろいろ読まれる吉野さんの柔軟性って、ちょっと見上げたものですよ。

吉野さんの周りで評価が割れた作品、志水辰夫の「いまひとたびの」(新潮社。94年に結構売れた)。私はこれ全然読んでないんですが(すまん)、この本を非難してる人の意見に思わず同調してしまいました。

「『老婆が5時間、おしゃれするためにあれこれ悩んだあとが部屋に残ってる』ってあれ、2時間なら分かるわよ?人が5時間かけるのって大変なことなのよ?あれを簡単に「5」って書けちゃう神経が許せないのよ!!」

↑私もこういうとこ物凄く気になるタイプです。映画でもちょっと腑に落ちないセリフがあろうものならずーーーっと引っ掛かって、作品に全然集中できない。たまたまそこで音楽が良かったりするとその時だけはひとまず流されるのだが、後になってから「よくもあんな無神経なセリフを!!」てな感じでしつこいしつこい…。や、分かります。他の人にとってはどうでも良いことでも、引っ掛かってる人間にとっては物凄く気持ち悪いんですよね。

「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」はタイトルが良すぎるせいでタイトルだけで読んだ気になってしまうとか、いつでも読めると思っていつまでも読まない「アルジャーノンに花束を」とか(それで先にビリー・ミリガンを全部読んじゃったりするんだよね)、読書家のみなさんにとっては共感できるエピソードが多いのでは。このシリーズは面白いのでまた書きます。
ISBN:4163156402 単行本 レイ・キンセラ 文藝春秋 1995/06 ¥2,039

キンセラのインディアンものの中で、おそらくいちばんぶっ飛んでてドタバタしてます。北極にも行くし大学に講演にも行くし(トラックで向かう途中でブレーキが壊れ、パトカーに追われつつも猛スピードで止まれない)、ホッケーもするし牛追いもするしプロ野球球団も持つし(ほとんど詐欺まがいに押し付けられたのだが)、女王陛下にだってローマ法王にだって会いに行く。主人公サイラス君たちが偶然にも「女王陛下との楽しいひととき」を過ごすことになってしまうあたり、キンセラらしい魔法が効いてて上手いなあ、好きだなあと思いました。
私は同じシリーズの「ダンス・ミー・アウトサイド」を先に読んでたので、お馴染みの登場人物が出るたびに「ああ、あの人がまたこんなことを…」と妙な親近感をもって見てしまいます。サイラスの親友、フランク・フェンスポスト君が車を運転するたびに大破させるのは、もう「バナナで滑る」「ドリフでタライ」並みのお約束になってきました。もっとしっかり止めなきゃダメじゃないかサイラス(最後の方で一度タックルして無理矢理止めたのは偉かった。君が必死で止めた功績を誰も気付かなかったのは残念だが)。サイラス君の性格「基本的に受け身」「流されやすい」「しょうがないので傍観する」て、キ…キ…うぐぅ、キアヌ・リーヴスかお前は!(ゆってしまった)アマゾンの紹介文でも、サイラスじゃなくてフランクが「主人公かつ執筆者」とかいうことになってるぞ(笑)。サイラスなのにしょっちゅう「サイモン」とか言われてるし。周りに強烈なキャラが多過ぎて全然目立たないんだよな。まあそんなとこも大好きなんだが。私が好きになる男ってみんなこんなのばっかりだ。

「ダンス・ミー・アウトサイド」や「パナーシュ」みたいな、ズキンとくる作品やしみじみさせる作品は今回ほとんどないのだけど、その分笑える話が多いですから。
アイスホッケーでマッド・エッタ(巨漢の女呪術師)にゴールを守らせるとこまでは「やるだろうな」と思ってたが、エッタが守るのを面倒くさがってゴールポストに呪いをかけると、相手チームがいくらシュートしても何故か必ずパックがそれていくのには笑った。「牛の大群」はもうタイトルだけでフランク・フェンスポストが何かバカなことやらかしたんだろうと想像がつく。他人のパスポートを使ってたことがバレてテロリストの疑いがかかると、自分の無害さを証明しようと「おれたちはカナダで何度も逮捕されている。おれたちの指紋を調べて照合してくれれば、テロと関係ないことが分かるはずだよ」とサイラス。「ブリティッシュ・コロンビアとサスカチェワンとノース・ダコタとユタでも逮捕されてるから、そこの指紋と照合してくれてもいい」とフランク。あんたたちホントにいいコンビだよ。

個人的には「ダンス・ミー・アウトサイド」の方が好きなんだけど、どっちから読んでもいいと思います。このシリーズの他の短篇も翻訳してほしいなあ……。

追記。サイラス君たちのシリーズはこの2冊の他に、「and Other Stories」(文藝春秋)でも一篇読めます。訳は村上春樹。
ISBN:4150305846 文庫 坂田 靖子 早川書房 1997/07 ¥861

坂田靖子ファンの中でも人気ありますよね、このシリーズ。私も大好きです。短大時代に「旅情編」の方を友達に貸したら「これ、最初っからこんなに面白くていいの?!」とかなり驚いておられました。うんうん、私もびっくりしたんだけど、このシリーズはホント、どこまでもサービス満点だよね。
マーガレット奥さん、ホームコメディのようなシチュエーションで「冷蔵庫にパイが入ってるから食べてね。わたしちょっと出掛けてきますから」とか言っといて唐突に南極行くんだもんな。しかも「エスキモーに会うのよ」ってそれは北極…。しかし飛行機で偶然隣りに乗り合わせた人が南極ペンギンの調査隊で、「よろしかったらご一緒にいかが?」「まあ!嬉しいわ、是非」。奥さんを心配して追いかけてきた旦那は成り行きでペンギンの数を数えるアルバイトしてるし。それがトランポリンで飛び上りながら遠くにいるペンギンの数を数えるという物凄い手法。「現地の人は寒いところに慣れてるし、とても目がよくってトランポリンでペンギンの正確な数を教えてくれるんです」っておいおいホントかよ。で、トランポリンで飛び上がってペンギン数えてる絵がとっても面白いんですが。うーん伝わらないかなあ、すっごく面白いんだけどなあ(無理だよな)。
こちらの「望郷編」も実は最初の短篇から私の好きな話。昔の遺跡の上に麦畑があるせいで、麦が成長すると丸とか四角の模様が浮かび上がるんだけど…、いやこれが、なんてことないんだけど凄くいいのよ。風向きによってじわっじわっと見えてくる遺跡の跡が思いの他広大で、それが長閑な午後に見渡す限り現れる描写がとっても気持ちいい。ついでに「意味もなく感動している」ご主人の様子がまた面白い(笑)。

ネス湖にネッシーがいてインドでは虎がバターになって、列車では推理小説まがいのミステリーが起こるしジャングルには新種だらけ、ヴェネチアでは詐欺師とラブロマンス、古いお屋敷に泊まれば当然のように幽霊が出るし、エジプトから帰るとミイラがついてくる(当然)。そして日本は「紙と木で出来てるものばかりだから燃えやすい!」(笑)。子供の頃に感じた「世界の不思議に対する漠然としたイメージ」が素晴らしく魅力的に描かれてますね。こういう勘違いに満ちた世界を描きながらも、しっかり現実的な面白いオチをつけて締めてくれる辺り、本当に凄いなあとため息が出ます。
そして坂田さんは食べ物を世界一美味しそうに描かれるマンガ家さんですよね。私もマーガレット奥さんを真似して、今度は美味しいパイを作ってみよう。お勧めのレシピ知ってる方いたら是非教えてください。
ISBN:4063405877 コミック ひうら さとる 講談社 2006/04/13 ¥410

手嶋君は目え悪過ぎじゃないか。酔ってるにしてもなんでそこまで勘違いできるかな。どうやったら「無理してテンパってる女」を「余裕のある大人の女」と見間違うんだ。
うちの図書館に来る男子のみなさん方もひとつ、そんな目で私を見てくれませんか。ダメですか。無理ですか。ありえないですか。そうですか。分かったからそんなに激しく拒絶しないでください。

ヘヴン・アイズ

2006年5月1日 読書
ISBN:4309203841 単行本 David Almond 河出書房新社 2003/06/20 ¥1,575

正直読んだ直後は「それほどでも…」と思ったのだけど、しばらくしてからじわじわと、この本で描かれてた光景が頭に浮かんできては心をとらえるようになってしまった。暗闇の中で泥の中から何かを掘り出し続けている老人、水かきのある手を持ち、不思議な喋り方をするヘヴンアイズ、非常口のドア(だったかな)で筏を作り、孤児院を抜け出す子供たち。なんだかどの光景も静謐で夢のように美しくて、思い描いているだけで冷たい朝の空気の中にいるような清浄な気持ちになってゆく。

孤児院を筏で脱出、と言っても胸踊る冒険物語なんかでは全然なくて、3人は川を下るもさっそく濁流にのまれて泥とゴミの溜まった「ブラック・ミドゥン」に乗り上げてしまう。そこにいたのは独自の「イカレた」生活を営んでいる少女ヘヴンアイズと彼女を保護している奇妙な老人。どう見ても頭がおかしいとしか思えない2人なのに、その2人とそこでの生活は、妙に私を惹きつける。孤児院で暮らしていた少女エリンの張り詰めたような語りも、静寂な空気とあいまって緊張感を呼び、ときどき痛々しさを伴いながら強く心に響くのだ。
冒険物語やファンタジーを期待した読者にはガッカリな展開かもしれないが、この物語には確かに、独自の繊細な輝きがあると思います。行き詰ったり、もどかしかったり、自分の力ではどうにもならない状況だからこそ生きてくる、脆いけれど大切にしたくなるような何かが(なんか物凄く漠然とした言い方してます、ごめんなさい)。それが最後まで壊れずに残っているのが見事。エリンを始めとする子供たちの抱えている、少し痛くてヒリヒリする感じそのものが、既に獲難い宝物なのかもしれない。
ISBN:4488013996 単行本(ソフトカバー) デイヴィッド・アーモンド 東京創元社 2000/09 ¥1,523

児童文学(ヤングアダルト本)は馴染みがないとどう選んでいいのか難しいですね。装丁や邦題に少しでも「あざとさ」を感じると、読みもしないでバカにしてしまうことばかりで。ホント申し訳ないことをしたなと感じる本が過去に何冊もあります。不案内の分野ではいつももっと謙虚でいたい。

デイヴィッド・アーモンドは今でこそ地位を確立した感がありますが、これが邦訳で出た当時は、私はまだ胡散臭い目で見てました。第一印象が悪すぎるんです。邦題も表紙も、作品を読んでから見ると結構納得行くんですが、読む前に見るとウケを狙い過ぎてるようでどうしても好きになれない(好きな人は大好きみたいだが、私はまったくダメでした)。帯を書いてるのが宮崎駿っていうのもまた、却って引かせる原因になったのではと未だに疑っています(苦)。
結果から言うと、この作品は物凄く良かった。ホント表紙や邦題なんかで引いてないで、とっとと読んでれば良かったと激しく後悔しました。宮崎さんもサービスで帯書いてたわけじゃないんですね(しつこい)。

未熟児の妹が今にも死ぬのではないかという不安と共に生きているマイケル。そしてやはり、同じ気持ちを抱えている父と母。彼らはそういった不安を押し殺し、慰め合い、時に耐えられなくなりながら、荒れた庭と今にも崩れそうなガレージと、大掛かりな改装を必要とする新しい家で暮らし始める。

ほんの少し今までと違う時間を過ごしただけで、昨日までの生活にブレが生じるような違和感。見えなかったものがくっきりと現れてくる驚き。妹の死がすぐ間近にあるかもしれないという恐怖。あらゆる出来事に対峙したときのマイケルの描写がどこまでも的確で、決して多くを語っていないにも関わらず思いが激しく胸に迫ってくる。かたちにも言葉にもならない気持ちが、語られないが故に溢れてくるように。この描かれ方はホント素晴らしいと思います。
物語自体も面白くて、隣家の少女ミナの指し示すものたちに次々興味を覚え、魅了されていく。デイヴィッド・アーモンドを初めて読むなら、是非お勧めしたい作品です。

恋愛的瞬間 (3)

2006年4月27日 読書
ISBN:4091913962 文庫 吉野 朔実 小学館 2002/02 ¥600

「窓から落とされそうになったらしがみつくしかないんです、たとえその先生が嫌いだとしても。友達からえこひいきされてると言われてもしがみつくしかなかったんです。私の体操着だけが何度も盗られたとしても、私だけが鍵つきのロッカーを入れるわけにはいかないんです。―――でももし、私の妄想だとしたら?」

『恋愛的瞬間』について言いたいことはたくさんあるんですが、今回は思いきって趣味に走らせてください。私はこのマンガに出てるレギュラーの女子、かしこ、撫子、遊馬(あすま)の3人がもうめちゃめちゃ好きなんだ。「ツインピークス」で言うとドナ、オードリー、アニーって感じ?いや、かしこはドナっていうよりシェリーかなー、うーん(そんなに悩まなくても、誰も分からんて…)。タイプは全然違うんだが3人とも見事にツボ。大好きだ。実は男子たち(羽左吉君と司。あ、かしこの年下の彼氏もいいなー)も好きなんだが、余りに女子が可愛いのでもう、男子はどうでもいい。特に私の好みをそのまま体現してるような、小柄でグラマーな撫子なんて最高。いや容姿だけじゃなくてね。自分の彼女の事を、無自覚に貶めるような言い方をする男に向かって「そーいうことを!ベラベラ喋るなバカモノ!!」とキレてる彼女にキュンとくる。

まあやっぱりあれだ。私は吉野さんの絵が好きなんでしょう。ちょうどいいくらいの配分で萩尾望都が入ってるような感じが。あんまりマンガ知らないくせにこういうこと言うと殴られますかね。でも正直に感じたままの感想です。

何度「君は正常だから安心しなさい」と言われても不安をぬぐえなかったのが、「完全に異常だよ」と言われた途端に救われたような気持ちになったことがある。「ああ、良かった。やっぱり異常なんだ。これでやっと、治すことができる」と。正常だと言われ続けると、たとえそれが励ましであっても気遣いであっても、「あなたは治療を受ける資格がない」としか受け取れていなかったのだ。こういうことってみなさんありませんか?思いがけない言葉を、ずっと欲していたことに気付くということが。「君に責任はない」という言葉で救われる人もいれば、「君の責任だ」と言われて救われる人もいる。「いつかきっと、酷い目に会えるよ」と保証された撫子は、たぶん本当に酷い目に会って、幸福になれるのだろう。
ISBN:4150102139 文庫 フレドリック・ブラウン 早川書房 1976/11 ¥630

突如地球に現れた、緑色がかった小人の火星人たち。地球侵略するわけでもなく、人間に危害を加えるわけでもないが、とにかく人の邪魔ばかりする。毒舌、嘲笑、秘密の暴露、瞬間移動能力で突然現れてはさっさと消え、交通事故を多発させ、TVやラジオの放送妨害、恋人たちの邪魔から国家機密の触れ回りまで、人が嫌がることは何でもする。武力行使に出ようにも、火星人の身体には触れることができない(すり抜けてしまう)のでダメージひとつ与えられない。一体彼らは何なのか。本当に火星人なのか?本体ではなく投影に過ぎないのではないか?我々の集団妄想なのか?いつまで地球にいるつもりなのだ?目的はなんなのだ?さまざまな疑念を呼びながら大混乱に陥ってゆく世界。そんな中で、作家のルーク・デヴァルウは「火星人を生み出したのは自分ではないか」と思い始める……。

唯我論(この世のすべてのものは、自分の想像の産物なのでは?という考え方)を大っぴらに小説にしてみました、という話ですね。オチに期待しすぎるとちょっと物足りなく感じるかも。火星人たちの邪魔っぷりは見事です。侵略目的ではなく、ただただ人を嘲りに来てるだけの宇宙人ていうのも、当時かなり新鮮だったんじゃないでしょうか。フレドリック・ブラウンはこの「火星人ゴーホーム」と「みみず天使」しか読んでませんが、作者、読者、書かれた本(下手に「テクスト」とか言い出すとまた面倒な話になりそうなのでやめとく)という関係を意図的に作品に盛り込んでゆくのがお得意のようだ。「唯我論とはそんなに稚拙な考え方だろうか?」というような、ちょっと意表を突くような意見を出してくるとこも上手いと思います。
ブラッドベリほどの感銘は受けなかったけれど、火星人たちに振り回されて、にっちもさっちも行かなくなってゆく世界を読むのはなかなか面白かった。古典SFとして押さえておくと、何かと便利そうな一冊(笑)。
ISBN:4488612059 文庫 レイ・ブラッドベリ 東京創元社 2006/02/27 ¥924

ブラッドベリばっかりですいません。最初の「ウは宇宙船の略号さ」(R is for Rocket)だけでもう、胸いっぱいになっちゃって大変でした。既にハヤカワ文庫で読んだ話も多く含まれてましたが、「ウは宇宙船の略号さ」一篇だけのためにこの本の全額出しても私は全然惜しくないですよ。いやこれはホント、たまらないですよね。胸が苦しいのに物凄く面白くて、何度も何度も読んでしまいます。
二度と戻らない「最後の土曜日」を「いつものとおりに」過ごすクリスとレイフ。お互いに事情を了解していながら「来週の土曜日に」また会おうと言い合うふたり。「ぼくらは男の子で、男の子だということが気に入っていて、町に住んでいてその町が気に入っており、学校もかなり好きだし、フットボールが好き、お父さんやお母さんが好きで……」そしてそれよりももっと好きな、宇宙船。クリスが「選ばれた」ことによって、あらゆる物語が繊細な現れ方をしては消えてゆく。それがあんまり魅力的に語られるので、いつまでも余韻が消えないのだ。

他にも「霧笛」「宇宙船乗組員」「この地には虎数匹おれり」「いちご色の窓」「霜と炎」など、印象に残る名作が盛りだくさんで、なかなかお買い得かもしれない。私が実は気に入っている「竜」(The Dragon)が収録されてるのもポイント高い。いやこれ、あの、いいですよね?ダメですか?(笑)ブラッドベリにしてはオチが明快で、読んでで非常に気持ちいいんですが(よく読むとそれほど明快でもないんだけど)。O・ヘンリとか好きな人にはぐっと来るんじゃないか、などと勝手に思っています。
ISBN:406337596X コミック サラ イネス 講談社 2006/04/21 ¥560

珍しく発売日に買いました。ちゃんと平積みしてありましたよ感心ですね。
私とことえりが「入荷しますか?いつ入荷しますか?えっ、入荷しないんですか?どうしてですか?取り寄せできますか?」と店員さんにさんざん精神攻撃した結果でしょう。きっと。
ISBN:4931284086 単行本 Rosamunde Pilcher 朔北社 1995/10 ¥2,520

「私の人生って無駄だったんじゃないかしら」輝きに満ちた素晴らしい少女時代を送り、貧しい戦時下も懸命に生きぬき、恋をして、結婚をして、子供たちを育て、今では孫もいる主人公の老女ペネラピ。彼女が人生の終わりにさしかかり、ふと虚しさにとらわれる。その瞬間が本当にやりきれなくて悔しい。ペネラピほど素晴らしく魅力的な人が、こんな思いにとらわれなきゃいけないなんて。

「シェルシーカーズ」はロザムンド・ピルチャー作品の中でも1、2を争う傑作です。押し付けがましいハートウォーミングな物語なんかではないし、お婆さんの退屈な思い出長話なんかでも決してない。いや読んでからそう思うのならしょうがないけど、読む前にそう思われてしまうと本当に悔しいのだ。いかにも女の一大年代記という出で立ちに「受けつけないかも…」と思ってしまうのはすごく勿体無い。時代がどんなに動いていこうと、ペネラピの持つ自然な魅力にむしろ驚かされてしまうはず。あれだけ俗物に囲まれながら、どうしてこんなに素敵な人でいられるのだと。

ペネラピが姑と初めて出会うシーンで、姑はしきりと、ペネラピがストッキングを履いてないことばかり気にしている。ここ読んでるだけで姑に対して「わあ、なんて詰まらない人(笑)」と思っちゃうけど、こんなのは序の口で。姑の性質はペネラピが生む長女のナンシーにも遺伝し、ナンシーはまた面白いくらいの俗物さを遺憾なく発揮。彼女は見栄とプライドの塊で、見映えの良いものばかり好み、「欲しい」ではなく「要る」と言う。住所に「旧牧師館」と書きたいがばっかりに無理して高い家を買い、子供たちの教育費と自分の肥満と、夫からの無関心、母親(ペネラピ)の「世渡り下手」っぷりを嘆いている。なんか、こういうのって貧しくて居た堪れない。この人、例えお金持ちになれても絶対幸せになれない気がする。
ペネラピを取り巻く人たちってこんなのばっかりで、ホントどうやったらこんな中で窒息せずに生きられるんだ?と疑問に感じるけど、それは読み進むにつれてだんだん分かってくる。画家の父と、フランス人の若く美しい母親から受け継いだペネラピの素晴らしい資質。彼女を愛した一人の男性(子供たちは彼を知らない)。そんな彼女の過去の物語に、きっと魅了されること請け合い。人生ってこんなにも美しかったのか、と、驚きながらも感動してしまいます。そして一瞬とはいえ、「無駄だったのかも」などとペネラピに嘆かせてしまった側面に、どこまでも胸が痛むのである。
ISBN:4151300937 文庫 アガサ・クリスティー 早川書房 2004/08/18 ¥798

ホームズが好きな人はルパンが読みづらく、ルパンが好きな人はホームズが読みづらいそうですが、「アガサ・クリスティーが読みづらい」っていう人いますか?私は多分、ホームズよりルパンより読みやすいです。と言っても、比較できるほど読んでないというのが実状なんですけどね(ごめんなさい、ミステリーはSFに次いで弱いのです)。

クリスティーと言えば「ABC殺人事件」や「オリエント急行の殺人」「そして誰もいなくなった」などが有名ですが、私は何故かそういった有名作品に縁がなく、別に狙ってるわけでもないのにポアロもミス・マープルも出ない作品にばかり当たっていました。当時は「うわ、またマイナーな方選んでしまった」と軽く気落ちしてたのですが、今思うとなかなか良い作品に多く出会えていたので、結構ラッキーだったのかなとも思っています。
「蒼ざめた馬」はクリスティー作品の中でもおそらくオカルト要素の強い作品。「呪いで人を殺せるか」といった、ちょっと「トリック」っぽいお話。実はゴシックな雰囲気を書かせるとべらぼうに上手いクリスティー。「まさかね、そんなことあるはずないよね」と思いつつ、「でもひょっとして」という隙を突いてくる手腕がさすがです。例によってポアロもミス・マープルも出ませんが、出てくる人物がみんなびっくりするくらい個性的で面白い。特に、鋭いんだか鈍いんだか、ただ話を交ぜっ返しに出てきてるだけじゃないのかというオリヴァ夫人のキャラクターがとても素敵。クリスティー自身も楽しんで書いてるのかもしれないけど、読んでる方も彼女が出てくるとホッと人心地つくような安心感を覚える。こういうオカルト趣向の強い作品には、彼女のような存在が非常に有り難い。個人的に、脇役の女の子たちも実は結構好きでした(笑)。そんなとこでも、クリスティーって別にミステリーじゃなくても十分面白いよな、と再確認させられます。

願いを叶えて欲しいと魔術師にすがる人たちはみなもっともらしい大義名分を持ち出すけど、取り繕っているものを剥がせば中身は全部同じ。「媚薬か毒薬」。人が欲しがる「魔法」なんて、突き詰めればこのどちらかしかない。そこで実際に行われる魔術だって同じこと。儀式だとか呪文だとか雰囲気だとか、そんな飾りをみな取り払ってしまえば、残るのは催淫剤か毒だけなのよ。こんな核心を突くようなことを登場人物に言わせるあたりも上手いですね。こういうことって、分かってる気になってるけど実は簡単に忘れがちだから。それで毎回まんまと「うわべの飾り」に騙されてる私は本当にアホだと思います。

実はキリカのレビューを読んでて私も「春にして君を離れ」で書こうと思ったのだけど、あれは私にとっても未だに恐ろしい作品で、とてもとても書けませんでした(汗)。ああああああれはホント恐いよね?「自己満足」なんて、最も陥りやすい罠じゃないか?読んでて「うああああ、もう勘弁してください」と何度謝ったことか(誰に)。あの本の恐ろしいところは、めちゃめちゃ恐いくせに読むのをやめられないところだ…。ここだけ私信ぽくてごめん。

ハヤカワから出たクリスティー文庫は、字が大きくて読みやすいですよ。訳も新しいので、クリスティーを読み返したい人にも、初めて読む人にもお勧めです。私も次こそはポアロかマープルを読もう。
ISBN:4150411077 文庫 レイ・ブラッドベリ 早川書房 2006/02 ¥840

字が大きくなってくれたのが嬉しくてしょうがないです、ブラッドベリの文庫。
以前書いた「刺青の男」と同様、こちらも短篇集。萩尾望都がマンガ化した「霧笛」で始まるので、読んでて「あ、アレか」と気付く人も多いはず。恐竜が灯台に会いに来る話、と言ってしまうと身も蓋もないが、何ヵ月もかけて水圧に身体を慣らしながら水面に現れる様は壮絶で、終わり方もうそ寒くなるような恐ろしさで素敵である。O・ヘンリ賞を受賞した快作「発電所」も入ってます。これはちょっと、SFの短篇としては上手すぎて嫌味なくらいの作品(笑)。素晴らし過ぎて文句のつけようがない分、偏愛しにくいです。いや別にしなくていいんだが。映画化された「サウンド・オブ・サンダー」も入ってますね。でも何より嬉しいのは、私の好きな「四月の魔女」が入っていること。後に長編「塵よりよみがえり」として一冊に纏められる中の断片なんですが、これは読んでて最高に気持ち良い作品。人や動物や物など、あらゆるものに「宿る」ことができる能力を持つ魔女セシーが、ひとりの少女に宿って恋を体験する物語。少女に宿る前のありとあらゆるモノに宿るセシーからして既にすごく気持ち良さそうで(夏の暑い日は涼しい川底でアメーバーに宿ることもできるんだよ、羨ましい)、この能力と引き換えに恋をするのは確かに惜しいなあと思ってしまう。もちろん少女に宿ってからのセシーもすっごく魅力的だから、是非そちらも楽しんでください。宿られた方の少女の事情なんかお構いなしに、セシーを応援してあげたくなること請け合い。
「刺青の男」はいわゆる近未来SFというか「ロケット時代」モノが多いんですけど、こちらは「四月の魔女」のようなノスタルジック風味の「不可思議な」物語が結構入ってるので、SFに抵抗ある人でも入りやすいと思います。

この短篇集、最初から素敵なんですよ。

「――愛をこめて
 南のよき魔女グリンダの娘ネヴァに」
ISBN:4087603121 文庫 W・P・キンセラ 集英社 1997/03 ¥510

サイラス・アーミンスキン君の書く文章って最高なんだ。綴りとか文法とかメチャクチャなんだけど、内容も語りも物凄く面白くて、大笑いしながら夢中で読んでしまう。笑いながらやりきれない気持ちになるけど、それってしょうがないよね。こんなこと、大笑いしながらじゃなきゃ話せないもの。君たちのささやかで無駄な抵抗、本当に意味がないよサイラス。でもすっごく、すっごく面白いね!大好き。

作者のキンセラは映画「フィールド・オブ・ドリームス」の原作者として日本でも有名。野球を題材にした小説を扱うイメージが強いかもしれないけど(実際そっちも面白い)、実はインディアンものの名手でもある。そして何より、短編小説の名手だ。
主人公のサイラス君は、カナダのインディアン居留置に住む18才のインディアン。白人の人種差別は酷いわみんな貧乏だわ揉め事は絶えないわ。そんな中なのにサイラス君、全然シケてないんだぜえ。可愛い女の子をナンパして、気に入らない警察の車はボコボコにして、そして女の子の彼氏と警官にボコボコにされて帰ってくるような毎日さ。あい、シケてますね。最初の話なんか、白人と結婚したサイラスの姉ちゃんに、どうにかして元恋人のインディアンの子を孕ませようとするお話。なんつーメチャクチャな、と呆気にとられていると、次の短篇、表題にもなっている「外で踊ろうぜ(ダンス・ミー・アウトサイド)」で思いも寄らぬ衝撃に立ちすくんでしまう。これはインディアンの女の子を強姦して殺した白人の男の子がほんの軽い刑しか受けなかったことに対し、居留置の男の子たちが復習を決意する話なんだけど…。これはどう伝えたらいいものか…。こんなに優しくて恐ろしい作品、初めて読みました。最後にサイラスの恋人サディが「しっかり抱いてちょうだいサイラス。わたしのことずっと離さないで」って震えながら抱きついてくるところがもう、たまらない気持ちにさせるんだけど、同時に物凄く恐いの。背筋がゾッとする。ネタバレになるので伝えられないのが本当にもどかしいんだが…これは是非読んでほしいので書かない。後で我慢できなくなったらまたどっかに書きます(笑)。サイラスたちが法廷で髪がボサボサだった理由に「毎日毎日ハイウェイの路肩に立って、町に出る車をヒッチハイクしなきゃならなかったんだ」とかサラッと書いてるとこも好き。サイラス…私と結婚して。

キンセラはさすが短篇の名手と言われるだけあって、物語の終わらせ方が素晴らしい。渦中の会話からスッと引いて、その周りにあるものの静かな描写で終わったりとか、どうにも解決のつかない一言で終わらせてみたりだとか。これはホント脱帽ですよ。

これだけ書いてるのに、この作品の良さを伝えられた気が全然しない。チキショー、いつかリベンジしてやる。
ISBN:4048970232 単行本 ジョアン・ハリス 角川書店 2001/12 ¥1,050

「人はいつでも、いまの自分がなりたかった自分とはちがうと気づいたとき、変わることができるのです。あるいは、自分の暮らす場所が、自分をだめにすると気づいたとき、そこを立ち去ることができるのです」

こういうことをインタビューで明言できるジョアン・ハリスってちょっと尊敬してしまう(※皮肉ではない)。そう簡単に変わることはできない、立ち去ることのいかに難しいか、そういう言葉で自分の怠惰を許すことの方が、ずっと簡単ではないか?

映画化された「ショコラ」の原作者として有名なジョアン・ハリス。私は「ショコラ」を読んでないので、彼女の作品を読むのはこの「ブラックベリー・ワイン」が初めてです。

冒頭のぞくぞくするような語り口に、わあ、これ一体どんな魔法の物語だろう??とわくわくして待ってると、登場するのがスランプに陥って酒に溺れてる作家。過去に小説「ジャックアップル・ジョー」を執筆して大ベストセラーとなるも、出版した本はそれ1冊のみ。なんだかやけにキャリア志向の高い恋人と同居してるけど、関係はいまいち上手くいってない。うだつのあがらない主人公。ここでまず軽い落胆を感じると思います(笑)。でもこれから?でもこれから?と諦めずに読み進むと、いくらか魔法の兆しは見えるものの、なかなか事が簡単には運ばない。交差される少年時代の思い出も、両親の不仲に伴う、一夏の望まない田舎暮らしとこちらも暗い。長編小説嫌いは絶対この辺で確実に本を投げ出すと思いますね。

ジョアン・ハリスって別に意地悪なわけじゃないと思うんだけど、「魔法はある」と読者を魅了しながらも、なかなかその威力を見せてくれない。「杖を振りかざしたら魔法ですべてが上手く行く、なんてことあるわけないじゃない」とあしらわれたようで、なんだかちょっと、鼻白んだような気持ちになってしまう。「でも魔法はあるのよ」ううーん、そこで何人彼女についてゆけるだろうか。

そう、そんなに読みやすい文章というわけでもないし、大きな謎やエンターテイメントに溢れた出来事の連続というわけでもないから、物語が読者を引っ張ってくれる力にはあまり期待しない方がいい。ただ彼女の物語って何とも言えずチャーミングというか、可愛らしいところがあって、私はつい読みつづけてしまいました。エスプリが効いてるけど冷たくない、甘ったるいだけと思いきや後から渋みが効いてくる、なんかそういうバランスが面白い。そこに嵌まれる人は暖かい気持ちで読めると思います。

いつでも変われると明言しつつ、登場人物には容赦ない試練を与える作者(笑)。そんなとこも正直で好きです。
ISBN:4560071217 ジャネット・ウィンターソン(ソフトカバー) 岸本 佐知子 白水社 1997/10 ¥998

ジャネット・ウィンターソンの作品では最初に読んだ「オレンジだけが果物じゃない」をさんざん推してきたのだが、久々にこちらを読み返したら余りの面白さに卒倒しそうになった。「あと十五分ほどで真夜中という時間だった。夜空は二つに分かれ、片側は晴れ、あとの半分は雲っていた」初っ端から私を掴んで引き込むこのヘンテコ描写。いや別に、普通のよくある空なんだけど、普通はそんな空を描かないと思う。

ひとつひとつ物語られる、魅惑的な物語の断片。ときに美しく幻想的で、ときにおぞましく下卑ていて、脆い夢のようでありながらいつまでも鮮明さを失わない。読んでいるうちにいくつかの断片が繋がり、重なり合って、過去も現在も未来も、すべてのものが今、ここにあるかのような不思議な感覚を呼び起こす。今ある自分を通して、かつて遠い昔に存在していた誰かが透けて見えるような。あるいは遥か遠い未来にいる誰かなのか。
もちろん、それ以前に断片ひとつだけ取っても恐ろしく面白い。床がなく、家具のすべてが天井から吊ってある家。人々はウィンチやロープを使って移動する。ここの人たちは、こと足の下にあるべきものの必要は一切認めず、頭の上のことだけを考えて暮らしているのである。最初の方に出てくるこの断片だけでもすっかり魅了されるが、さらにぞくぞくと、これでもかこれでもかと凄いイメージが繰り出されてもうすっかり参ってしまう。初めてバナナを見た人々の反応など、ガルシア=マルケスの「百年の孤独」で初めて氷を触った人の感想「煮えたぎってるよ!!」と同じくらい面白い。
起承転結という流れの物語でないにも関わらず、読むのを止めることができない。こんな不思議な面白さを、是非多くの人に味わっていただきたい。絶対損はしないはず。タイトルで引かないでー。

画像はソフトカバーの白水Uブックスで出てますが、これは非常に読みづらいので、出来れば無理してでもハードカバーを探して読まれることをお勧めします。
ISBN:4396761554 コミック 二ノ宮 知子 祥伝社 1996/09 ¥920

短大時代にゲラゲラ笑いながら読んでましたが、久々にあらためて読んだらまたゲラゲラ笑って夢中で読んでしまいました。大笑いしつつも、いつのまにか当時の二ノ宮さんの年齢を追い越している自分にハタと気付いてちょっぴり切ない。今じゃすっかり売れっ子の二ノ宮さん。ポンちゃんと結婚した際には、これ読んでた友達全員で集まって「うわー、おめでとうー!!」と勝手に祝杯をあげたものです。懐かしいなあ。

これ描いてる当時から二ノ宮さんのマンガは十分面白かったってことがよく分かる。長編はちょっと、あまりに伏線が多くて挫折してしまったのだが、細かいエピソードだとか言い回しとかがもう、べらぼうに面白くて好きだった。「わたし金や出世には興味がないし☆」「興味じゃなくて縁がないんですよっ!現実見てくださいよ!!」的な。私は「もりへーが売店から薪を盗む」と、そばで吠えてる番犬の絵、そして「なにか盗ってこい」と指示する若林師匠の絵だけでかなり長いこと笑ってられます。二ノ宮さんによってめちゃくちゃ凄い要約のされ方をしてる「課長 島耕作」も捨てがたい。ホントにこんな話なのかよ。ちょっと面白そうだよ島 耕作。
そして端々に出てくる単語がまた、私が学生だった当時の空気をそのまんま伝えてくるのが泣かす。アパガード(※東幹久と高岡早紀によるCMが有名だった歯磨き粉)、trf(※globeの踏み台)、ウィンドウズ95(が出たばっかりだった)、「うどん部へ入ろう!」(※カレー部へ入ろう!っていうCMがあったんですね)、「SMAPなDUNK」(※SMAPとスラムダンクが全盛だったんです)、「超バッド」(って言ってる女の子がたまにいました。チョベリバと同義語)。ああもう、涙出ちゃーう。

ただでさえおバカな短大女子の私は、当時26〜27才の二ノ宮さんが繰り広げるこの世界に大変励まされました。そうか、大人になってもこんな感じでいいんだと。そして今に至ります。後悔はしてません。してませんてば。

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